強い女性
青春時代の話。
常連だった喫茶Sに、いつも夕方来る二人連れがいた。
男性はちょっとカールしたロン毛、
女性はカジュアルファッションのポニーテール。
ほぼ一週間に一回は現れるため、
いつしか私とも仲良くなった。その頃。
やはり常連で、ちょっとケバいお姉さんから頼まれた。
「しばらく西川口まで出張なんだけど、今、手持ちが無くて」
10万円、貸してくれ、と言う。当時、私は17歳。
だが、きちんとバイトもしていて、同じく常連だった高校生仲間に、
おごってやったりもしていたので、ある程度、お金を持っている、
と、思われたのだろう。
私「今、ちょっと・・・五万なら」
彼女がうなずいたので、急いで銀行のATMへ。
借用書もなく、返済予定日の一週間を超え、一か月が過ぎ。
喫茶Sのウェイトレスさんとそのハナシになり、
ちょっと困っている・・・と、言うと、
ちょうど、そのカップルがやってきた。
で、住所は聞いてあったので、取り立てに行ったら、
なんか男の人が出てきて、アイツはまだ帰ってきてないよ、と、
言われた、肩口にモンモンが見えたから、筋者らしい、と。
・・・・分かった・・・。助けてほしい?
と、彼女のほうが口を開いた。
男性のほうは銀座のクラブでピアノを弾いている、と聞いていたが、
彼女のことは何も知らない。すると男性のほうが小声で、
「アイツ、○×会の○長の娘。大丈夫だよ」と。
ダルマ≒サントリーの黒を一本、約束して、
彼女とその相手の部屋に行った。行くことは電話してあったので、
リビングに二人の男が居た。やはり同系列の匂い。
彼女「あんたらさぁ、どこのモン?
自分のイロが、こんな子供に迷惑かけて恥ずかしい、と思わないの?」
返す返さないで、お互い口を開いてから三分後の出来事だった。
リビングのソファに腰を掛けて、腕組みしたままでの強い口調。
その両目は、対面の二人を見据えているようだった。
ちょっと、出ていて・・・と、彼女に言われ、
もし何かあったら、と心配した私に、彼女は強い口調で、もう一度。
キッチンに立ち、会話は聞こえないようにして、数分後。
話はついたから、帰りましょう、と言われ、彼と彼女のマンションへ。
ダルマはお金が返ってきたら渡します、と告げ、彼のオーディオを聞く。
JBLのフルレンジ10cm。そうとうな音楽通だと分かる。そして。
一週間後、くだんの部屋に取りに行くと、「ほら、よ」
ドアを細く開けて、七万を裸で渡された。何が起こったのかわからず、
だが、ダルマを買って、彼と彼女のマンションへ。
「ふーん。ま、ちゃんと上と話したからね、
よかったよかった、コーヒーでいい?」と、彼女。
こうして私は、初めて表の筋者同士の対立を目のあたりにしたのだ。
裏の筋者はすでにいっぱい知っていたが。
拙著・屁理屈屋のP125。
「沈むか、お前? 東京湾も広いぞ?」のセリフは、
実際に私が言われた言葉である。この件以外の裏の筋者に。
コピーライター・作家 アングラ文化評論家 江古田潤