渡辺淳一先生
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陽のあたる坂道
私が初の刊行本を、ベースは医学ミステリにしたわけ。
さかのぼると中学時代の読書癖に結びつく。
筒井康隆さん。ご親族に医師がいたせいか、
SFのなかでも、医科学描写が多かったように思う。
「時をかける少女」は、ラベンダーの香りで意識が時空を超える。
まだアロマテラピーなんて言葉が知られていなかった頃。
それでも彼には、脳科学的に香りと精神の深い関係が、
視野にあったのだろう。その割には、NHKを、
「日本ハイミナール供給会」とボケる方で、
ギャグを忘れない、その作風は、私にも文化的遺伝を起こしているし、
尊敬している作家である。
次に星新一さん。製薬会社の創業者の家系で、
登場人物はほとんどN氏などイニシャル表記。
患者さんの実名に重なることを、無意識に避けていただろう。
やはりSF作家なので、不思議な薬に関するショート・ショートが多い。
この読書歴から、拙著・屁理屈屋が、医学、法学、軍事、政治、刑事、民事、
疑似家族に満ちた作品になったのだ。そして。思春期が過ぎ、
漫画家・吉田秋生さんに出会う。バナナフィッシュは最高に好き。
そして海街diary。全巻揃えている。3の陽のあたる坂道では、
長姉・幸(さち)=職業・ナースが、こんなセリフを吐く。
「心の病気になってしまった人と向き合うのは並大抵のことじゃないのよ!
病気のせいだと頭では分かっててても、やり切れないだってあるのよ!!」
これ、精神科学の実例を観察していなくては出て来ないセリフである。
吉田秋生さんは、「YASHA」で、ブトウ糖にグルコースとルビをふるくらいの方。
陽のあたる坂道では、ほぼ主人公にあたる中学生、すずが、
父を看取ったとき、日ごろに悪くなっていく父を同室の人たちが心配するので、
カーテンを閉めていた・・・の描写もある。
幸は黙ったまま、納得した、と言う顔をした、と説明が入る。
吉田秋生先生も、医療情報に詳しい立場だったのだろう。
調べればすぐに分かることなのだが、もう調べない。
あの先生が私を敵視している以上、私に関わると迷惑をかけてしまう。
医科学の発展を願って書いた作品なのに。それが悲しい。
↑この文章を再録した理由。作家・渡辺淳一先生が亡くなった。
たしか医師免許も持っていらした、と記憶している。前立腺がん。
数少ない腫瘍マーカーで見つけられる、がん。医師だから、
血液検査で見分けがつく疾病で、それでも対処が遅れれば、
致命的になることを、自身の生命を使って、
後進の医師たちに教えながら去っていったのだろう。
GE横河メディカル・エッセー賞で、審査委員長をしていらした。
その賞は、私の作品は最終選考まで残ったが、受賞を逃した。
ギャグを入れすぎたから・・・と、思っている。
渡辺先生。科学者だから、ご冥福を、とは言わない。いつか私も逝く。
コピーライター・作家 ヤフチャ科学部屋・生物、医学担当 江古田潤