緊急避難

 



私が、怪しげな健康食品の効果効能表現を断って、

年収が二十分の一までダウンした、と言う話は、

このブログでも何度か書いた。

薬事法68条←今は名前が変わったが

の書き出しは、何人たりとも・・・である。

まだアガリクス茸でガンが治る・・・的な本が、

言論の自由がある出版物ではなく、広告媒体だ、と言う、

司法判断の三年ほど前だ。私の正当性が証明されたわけだが、

実は、自分から薬事法違反を持ち掛けたことがある。

大学法学部、入校以前。

伊豆に、某女性と旅に出かけた。

就寝前、「潤・・・ちょっとアタマが痛い・・・熱っぽい」。

お互いいつも体温計は持っている。37.8度。

微熱と言うより、発熱傾向顕著な数値。

旅館のフロントに電話、近所に薬局が無いか、

聞いてみる。この時刻だともう閉まっている・・・と言う返事。

二度目の計測で、37.9度。うーん。

悩んで、フロントに解熱剤はありますか? と、

頼んでみた。えっと・・・と、言う躊躇いの後、熱の傾向を聞かれ、

素直に答えた。少々、お待ちください、の返事の後、

仲居さんがアセチルサリチル酸の錠剤を持って現れた。

医師も薬剤師もいないこの状況で、薬剤を処方するのは薬事法違反。

その女性にアスピリン喘息の発症例は無いし、

当のその薬を何回か服用し、一度も問題は無かった、と言う。

ためらわず服ませた。ショック発現率は0.001パーセント程度。

これで大丈夫だろう、と思って寝た。翌朝、彼女は、

すっかり熱も冷め、爽快な目覚めだったと言う。よかった。

ここで法的解釈の説明に入る。緊急避難原則。

自分または他人の生命、身体、財産を、

不測の侵害から守るために執った行動は、違法性を阻却される。

旅館側は、「朝まで誰か仲居が起きているので、

もし効かない、とか熱が上がって、とかあったら、連絡くださいね」

と告げてくれた。万が一だったら救急車を呼ぶつもりだったのだろう。

この発言を聞いて、「緊急避難で違法性が無くなる」と判断、

旅館が用意してくれたアセチルサリチル酸アスピリンを、

服ませることに決意したのだ。ただ、迷惑がかかるといけないので、

旅館の名前は出さない。今だに夏が来ると、

優待宿泊券が届けられる。いい旅館である。



コピーライター・作家 医科学評論家 江古田潤