高円寺

中央線の駅、高円寺。この街は、我が青春の街である。

高校を三回中退し、四校目でやっと卒業したとき、

この街で、トラック運転手として新聞輸送をしていた。

当時、尊敬していた先輩にN村さんがいる。常に冷静沈着、

H大学法学部卒、探偵稼業を経て、運転手になった。

いつも配送待ちの間、静かに読書をしている方で、職場で労働争議が起きた時、

 労働三法を小脇に抱え、「オレは一人でも戦うから、お前ら、

(新聞輸送の)業界にいたいなら、争議に乗るな」

と、断固とした口調で言った人だ。

私がやがて法学部に進んだのも、この人の影響が大きい。

で、N村さんが、アパートを引越しする際、私も手伝いにいった。

そのお礼として、小包みをもらった。「本だよ。お前にやるよ」

無口だった氏は、そういって私に渡してくれた。

N村さんからの本。きっと貴重な哲学書か法律書なんだっと、

喜び勇んだが、中身はもろごっついエロ本だった。

これは笑い話どころではなく、

心身ともに思春期の終わりを告げようとしていた私にとって、

毒以外の何物でもない。結果、フリーライターになってから、

妙にエロ本の記事書きをしていたのも、このことが原動力になったのかもしれない。

某中小代理店の営業だったS田氏が、エロ本に強い出版社に転職し、

しかも発注してくれたのだった。

拙著・屁理屈屋では、この地・高円寺で、

主人公の修家聖(しゅうけ・ひじり)が、

仲良くなる吉住理央(よしずみ・りお)と出会うことになっている。

私はそれを考えながら、理央が働いているはずのスナックが入っているはずのビルを、

ながめながら中央線に乗った。創造の人物とはいえ、モデルになったコはいる。

いまだに元気にしているだろうか。

友達とふたりでカラオケで見事なハモりを聴かせてくれた。

音楽屋の息子である私も相対音感はあり、二、三度聴けば、

勝手にメロディを作ってハモれるが、

いまだ理央を超える歌い手には、会っていない。

コピーライター・作家 音楽屋
ゴールド免許・四回更新のドライバー  江古田潤